
介護タクシーは、介護を必要とする高齢者や障害者が自力での移動の場合に利用できる移動・送迎サービスです。公共交通機関が発達していない地域を中心に重宝され、近年は少子高齢化の進展とともに需要が急増しています。
一方、介護タクシーの料金体系は運賃と介助料、車椅子などの介護器材のレンタル費用の3つで構成され、複雑です。そのため、「介護タクシーの利用料金はわかりにくい」「実際にどのくらいかかるの?」と考える利用者も少なくありません。
そこで、本記事では、介護タクシーの料金体系について説明した後、実際の利用シーンを想定した介護タクシーの料金シミュレーションを実施します。類似サービスにあたる福祉タクシーの料金シミュレーションも実施するので、ぜひ参考にしてください。
介護タクシーとは?
介護タクシーとは、要介護状態の方や、車椅子を使用する高齢者の方向けのタクシーのことです。介護関連資格を持つ乗務員から、乗降時の介助や外出前後の着替えの介助などを受けられます。
介護タクシーは、公的介護保険に基づく訪問介護サービス「通院等乗降介助」にあたる移動手段です。そのため、利用対象者については、要介護1以上に認定され、自宅などに住み、バスや電車といった公共交通機関を1人で利用できない方に限られます。
利用目的についても、預貯金の引き出しや選挙における投票など、通院や日常生活で必要となる外出に限定されます。そのため、介護タクシーは、習い事やドライブなど、趣味や嗜好のための利用や、日用品以外の買い物などでは利用できません。
介護タクシーと福祉タクシーの違い
福祉タクシーは、高齢者や障害のある方など、自力での移動が困難な方の移動を支援するタクシーです。通院や日常生活で必要となる外出に限定される介護タクシーと違い、病院までの送迎のほか、買い物・冠婚葬祭・旅行・観光の付き添いなど、さまざまな用途で利用できます。
福祉タクシーは、公的な支援を必要とする方々を対象としているため、要介護者のほかに、要支援者の方でも利用可能です。さらに、身体障害のほか、内部障害や知的障害、精神障害などで通常のタクシーを利用できない方や、病気やケガを理由に通常のタクシー利用が困難な健常者の利用も認められています。
一方、福祉タクシーでは、乗務員が必ず介護関連資格を有しているとは限らず、介護タクシーと違って介助サービスを受けられる保証がありません。そのため、乗降に際して介助が必要な場合、付き添いの家族や介護スタッフの同乗が必要です。
介護タクシーの利用料金を構成する3要素
介護タクシーの利用料金は次の3要素により構成されています。
- 運賃
- 介助料
- 介護器材の使用料
このうち、介護保険の対象になるのは、介助料だけです。

運賃と介護器材の使用料については、全額自己負担となる点に留意しましょう。
運賃
運賃は一般タクシーと同じように、走行した距離と時間に応じて発生する料金です。国土交通省地方運輸局による認可を受けた法定料金であるため、認可を受けていない運賃での運行や、割引・割増は禁止されています。
運賃の計算方法については、多くのタクシー会社で、時間も距離に換算して計算する時間距離併用制運賃が採用されています。
実際、初乗りで1.5kmまでは740円、その後は237mごとに100円、時速10キロメートル以下の運行について1分30秒ごとに100円としているタクシー会社があります。
ただし、タクシー会社によっては、予約時点で時間ごとに料金が発生する時間制料金か、距離ごとに料金が発生する距離制運賃のどちらかを選ぶことも可能です。料金体系で不明な点がある場合は、タクシー会社に問い合わせるとよいでしょう。
介助料
介助料は、乗降や移乗・病院・施設内の介助、外出前後の着替えなどにかかる料金です。
介護保険の「通院等乗降介助」が適用される場合、1回あたりの介助料は、所得に応じて自己負担1〜3割(約100円〜300円)となります。往復の場合は2回カウントされる点にご注意ください。
また、介護保険が適用されない場合は全額が自己負担となり、介助に応じた料金が発生します。介護保険適用外の介助とその料金表の例には、次のようなものがあります。
食事・排泄(おむつ交換を除く)・着替えなど | 一介助ごとに/30分 | 500〜1,000円 |
夜間介助料(20時〜22時) | 一乗車ごとに | 3,000円 |
深夜介助料(22時〜翌朝5時) | 一乗車ごとに | 5,000円 |
病院受診・外出先などでの付き添い | 一介助ごとに/30分 | 1,500円 |
出典:介護タクシーいろは「ご利用料金・ご予約方法」
介護器材の使用料
介護器材の使用料は、移送に使用する車椅子やストレッチャーの使用にかかる料金です。レンタル可能な器具の種類や料金はタクシー会社によって異なりますが、おおよその目安については、次のとおりとなっています。
- 車椅子:無料〜1,000円程度
- リクライニング車椅子:1,000円〜2,000円程度
- ストレッチャー:3,000円〜6,000円
タクシー会社によっては、酸素ボンベや吸引器といった医療機器をレンタルしている会社もあるので、事前に確認するとよいでしょう。
介護タクシーの料金シミュレーション
ここからは、実際の利用シーンを想定した介護タクシーの料金シミュレーションを実施します。具体的な計算例のもと説明するため、ぜひ参考にしてください。
介助や器材なしで1.5㎞先の目的地に移動した場合
介助や介護器具の使用を必要としないケースでは、利用者が、島根県松江市の「介護タクシーいろは」の介護タクシーを1.5kmの移動で利用したと想定します。
介護タクシーいろはでは、初乗運賃が最初の1.5kmまでとなっています。そのため、1.5km移動する場合、運賃は初乗運賃の740円しかかかりません。
また、介助も器材も利用しなければ、介助料や介護器材の使用料は0円です。結果、このケースでの合計料金は740円になります。
介助や器材ありで10㎞先の目的地に移動した場合
このケースでも、利用者は介護タクシーいろはの介護タクシーを利用し、10km移動したと想定します。また、車椅子をレンタルしたうえで、乗降介助と車椅子への移乗介助、2階までの階段介助を受けたとします。
このケースでは、初乗料金の740円に加え、残りの8.5kmに3,586円の加算運賃(100円/237mで計算)がかかるため、運賃が4,326円となります。
介護タクシーいろはでは、車椅子のレンタル料はかかりません。しかし、乗降介助と移乗介助、階段介助の3つの介助に対し、各1,000円がかかるため、介助料は計3,000円です。
以上により、運賃と介助料を合わせた合計料金は、7,326円となります。
福祉タクシーの料金シミュレーション
続いて、実際の利用シーンを想定した福祉タクシーの料金シミュレーションを実施します。具体的な計算例のもと説明するため、ぜひ参考にしてください。
介助や器材なしで1.5㎞先の目的地に移動した場合
介助や器材なしの使用を必要としないケースでは、利用者が、大阪府豊中市の「福祉タクシールビー」の福祉タクシーを利用し、1.5km移動したと想定します。
福祉タクシールビーでは、初乗運賃が最初の1.7kmまでとなっています。そのため、1.5km移動する場合、運賃は初乗運賃の700円しかかかりません。
福祉タクシールビーは介助サービスや介護器材の貸出も手がけていますが、介助も器材も使用しなければ、介助料や介護器材の使用料は0円です。結果、このケースでの利用料は、700円になります。
介助や器材ありで10㎞先の目的地に移動した場合
このケースでも、利用者は福祉タクシールビーの福祉タクシーを利用し、10km移動したと想定します。また、リクライニング車椅子をレンタルしたうえで、基本介助と室内介助、特殊介助を受けたとします。
このケースでは、初乗運賃の700円に加え、残る8.7kmに3,192円(80円/208mで計算)の加算運賃がかかるため、運賃は3,892円になります。
福祉タクシールビーでは、リクライニング車椅子の器材使用料は1,000円です。一方、介助料は基本介助が500円、室内介助が500円、特殊介助が1,500円となっているため、介助料は2,500円です。
以上により、運賃と介助料、器材使用料を合わせた合計料金は、7,392円になります。
介護タクシーの料金を抑えるためのポイント
介護タクシーの料金を抑えるためのポイントには、次の3つがあります。
- 事前に具体的な見積もりを取る
- 介護保険が適用されるかどうかを確認する
- ケアマネージャーからアドバイスをもらう
介護タクシーの利用料金は経済的に余裕がない方に配慮した料金体系になっているものの、これらのポイントを押さえることでより安く抑えられます。ぜひ参考にしてください。
事前に具体的な見積もりを取る
介護タクシーの料金を抑えるためには、事前に具体的な見積もりを取りましょう。介護タクシー会社によっては運賃の計算方法が複雑だったり、当日の介助によっては追加料金が発生したりする場合があるためです。
想定外の料金がかかってしまわないよう、事前に移動距離や必要な介助内容、レンタルする器材などを伝えることで、正確な見積もりをもらいましょう。

また、見積もりをもらうことで、距離制運賃と時間制運賃、どちらが経済的かも検討可能です。
介護保険が適用されるかどうかを確認する
介護タクシーの利用料金を抑えるためには、介護保険が適用される利用対象者に含まれるかどうかを事前にタクシー会社へ確認しましょう。
介護タクシーの利用条件を満たすためには、要介護1〜5の認定を受けたうえで、ケアプランに「乗降介助・身体介護が必要」などと記載されることが必要です。加えて、1人で公共交通機関を利用できず、車の乗降に介助が必要と判断されなければなりません。これらの条件を満たすことで初めて介護タクシーを利用できます。
これらを踏まえ、事前に介護保険の適用対象に含まれるかどうかを確認するとよいでしょう。
ケアマネージャーからアドバイスをもらう
介護タクシーの利用に際しては、ケアプランの作成・管理をメインに、介護利用者と介護施設の橋渡し役を担うケアマネージャーに相談するとよいでしょう。
ケアマネージャーに相談すれば、次のようなアドバイスを受けられる可能性があります。
- タクシー会社のサービス料金が適正かどうか
- 介護保険を適用する際の手続き方法
- 自治体が独自に展開している助成制度に関する最新情報
- 医療機関との連携が必要な場合のアドバイス
- 定期的な通院や外出など継続的な利用が必要な場合、効率的なサービス利用計画の立て方
まとめ
料金シミュレーションでも説明したとおり、介護タクシーの利用料金は走行距離だけでなく、介助や介護器材のレンタルの有無によって異なります。
そのため、タクシーの利用にあたっては、事前にタクシー会社より見積もりを出してもらうことが大切です。具体的な見積もりをもらうことで、ご予算と実際の利用料金の整合性が取れたり、安心してサービスを受けられたりするでしょう。
また、会社によって介助料や介護器材のレンタル料金が異なります。

これを踏まえ、複数の介護タクシー会社の料金を比較検討したうえで、利用する会社を決めるとよいでしょう。