
介護タクシーと民間救急は、いずれも介助が必要な移動弱者を対象にした移動・送迎サービスです。
しかし、介護サービスの利用者や介護経験が浅いご家族のなかには、双方の違いや利用が適切なケースについてご存じない方も少なくありません。
そこで、本記事では、介護タクシーと民間救急の基本的な違いについて解説した後、双方の間に存在する乗務員の資格と専門性、車両設備、料金体系などの違いについて解説します。利用がおすすめなケースについても解説するため、ぜひ参考にしてください。
介護タクシーと民間救急の基本的な違い
はじめに介護タクシーと民間救急の基本的な違いについて解説します。
介護タクシーのサービス内容や利用シーン
介護タクシーは、一般的に通院や退院といった軽度の介助が必要な方を対象にした移動・送迎サービスです。訪問介護サービスの1つに位置付けられ、乗務員による介助費については介護保険の適用により減額措置を受けられます。

介護タクシーは、専門的なケアを必要とする高齢者や身体が不自由な方が医療機関や自宅、介護施設などに安全に移動するのを補助するのが目的です。
具体的に次のような利用シーンを想定しています。
- 定期的な通院や人間ドック
- デイサービスや福祉施設への送迎
- 車椅子での通院や外出
- 買い物やお出かけなど、日常的な移動
民間救急のサービス内容や利用シーン
民間救急は緊急性の低い方の入退院や通院、社会福祉施設の送迎などに移動手段を提供するサービスです。正式には、「民間患者等搬送事業」と呼ばれ、サービス提供に先立ち、各市区町村の消防局で認定を取得する必要があります。

民間救急は、専門的な医療スタッフの見守りや介助が必要な人を対象に医療処置を受けながらの移動を可能にするのが目的です。
具体的に次のような利用シーンを想定しています。
- 酸素投与や点滴など、医療処置を継続しながらの転院搬送
- 車椅子やストレッチャーでの移動が必要な方の搬送
- 医療機器を使用しながらの入退院・一時帰宅
- 冠婚葬祭や旅行といった外出
- 各種感染症を罹患した方の搬送
介護タクシーと民間救急の乗務員の資格と専門性の違い
ここからは、介護タクシーと民間救急の乗務員の資格と専門性の違いについて解説します。
介護タクシーの乗務員
介護タクシーの乗務員は介護の専門知識を持つ介護福祉従事者という位置付けであることから、次の専門資格を取得しなければなりません。
- 普通自動車二種免許
- 介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)
介護タクシーの乗務員の資格要件については、介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)のほかに、介護福祉士やケアマネージャーなどがあります。ただ、そこまで専門的な資格を取得しなくても、130時間の講義受講で取得できる介護職員初任者研修で十分です。
それでも、介護タクシーの乗務員は利用者の移動支援だけでなく、介助サービスを提供するなど高い専門性を有します。具体的には、着替えやおむつ交換といった出発前の外出準備介助のほかに、病院受付や薬の受け取りといった受付・会計代行もサポートしてくれます。
なお、介護タクシーでは、スタッフ1人で対応するケースが一般的です。必要に応じて乗務員が追加される場合もありますが、基本的に1人の乗務員が運転手を兼任することになります。
民間救急の乗務員
民間救急の乗務員は普通自動車第二種運転免許の保有に加え、各消防署で実施される患者等搬送乗務員基礎講習を受講することが求められます。民間救急では、医療処置を継続しながらの搬送サービスを提供するケースもあるためです。
ただし、次の有資格者については特定適任に該当することから、患者等搬送乗務員基礎講習の受講が免除されます。
- 医師
- 助産師
- 保健師
- 看護師
- 救急救命士
- 准看護師
- 医学士
- 看護学士
このように民間救急の乗務員は、有資格の医療従事者という位置付けです。そのため、医師の指示がある場合に、次のような医療行為を利用者に対して提供できます。
- 心肺蘇生(CPR)
- 自動体外式除細動器(AED)の使用
- 気道管理
- 酸素投与
- 止血
- 体位管理
介護タクシーと民間救急の車両設備、積載資器材の違い
ここからは、介護タクシーと民間救急の車両設備や積載資器材の違いについて解説します。
介護タクシーの車両設備と積載資器材
介護タクシーでは、身体が不自由な方や高齢者の方が安全かつ快適な移動を実現するために設計された福祉車両が使用されます。そのため、福祉車両の車両設備については、移動支援を目的とした福祉機器が中心的に装備されているのが特徴です。
- 電動リフトやスロープ
- 車椅子固定装置
- 多目的手すり
- 電動回転シート
- 座席の高さ調節機能
ただ、介護タクシーでも、医療依存度が高い方の搬送にも対応できるよう、人工呼吸器や生体情報モニターといった医療機器が搭載されている車両もあります。
民間救急の車両設備と積載資器材
民間救急では、医療処理を継続しながらの搬送を実現するため、医療搬送を念頭に設計された専用車両が使用されます。そのため、専用車両には、次のような医療機器が搭載されています。
- 吸引機
- 心電図モニター
- 酸素ボンベ
- AED
- ストレッチャー
- 使い捨てのシーツと枕カバー
- カテーテル
- 血圧計
- 酸素カニューラ
- 酸素マスク
このほかにも、民間救急で使用される車両は乗務員が業務を実施するためのスペースが確保されているほか、換気と冷暖房の装置を備えているのが特徴です。また、多くの車両で、消防機関への通報を要する緊急事態に備え、自動車電話や無線機など、通信や連絡に必要な設備も設置されています。
介護タクシーと民間救急の料金体系の違い
ここからは、介護タクシーと民間救急の料金体系の違いについて解説します。
介護タクシーの料金体系
介護タクシーの料金体系は、運賃と器材・機器使用料、介助料の3つで構成されています。
運賃については一般的なタクシーに準ずる料金体系を採用することから、一定の距離までは初乗り運賃、一定距離を超えると距離制運賃で計算します。ただし、長時間の使用や待機が必要な場合は、時間制運賃も選択可能です。
器材・機器使用料については、車椅子やストレッチャーといった介護機器のほか、吸引器や人工呼吸器といった医療機器の使用に対して加算。一方、介助料については、乗降介助や階段介助、院内介助などに対して加算されます。
民間救急の料金体系
業者によって料金が加算される項目は異なりますが、民間救急の料金体系は、基本的に運賃と介助料、その他の3つで構成されます。
運賃は、国土交通省で認可された料金です。営業所の出庫から出発地、目的地、帰庫までの料金を計算し、距離計算または時間計算で算出された料金のうち、高い方の料金を運賃として採用します。
介助料は各事業所により異なるものの、同乗スタッフの資格の内訳や乗務員の人数、対応時間などをもとに計算されます。
その他には、高速道路料金や駐車場料金、感染症対策費などが含まれます。高速道路料金や駐車場料金については、利用しなければ発生しません。
介護タクシーと民間救急、それぞれの利用がおすすめなケース
最後に介護タクシーと民間救急、それぞれの利用がおすすめなケースについて解説します。
介護タクシーの利用がおすすめなケース
介護タクシーは要介護1〜5であるものの、容態が安定しており、利用目的が定期的な通院や通所、日常的な外出に限られる方がおすすめです。
また、移動方法が車椅子、医療処置が不要、短距離の移動が中心といった条件に同時に当てはまる人も、介護タクシーの利用に適しています。
民間救急の利用がおすすめなケース
民間救急は容態が不安定で、複数人による介助が必要な方や、酸素投与や点滴といった定期的な医療処置を必要とする方におすすめします。
特に利用をおすすめできるのは、寝たきりの方です。寝たきりの方でも民間救急を利用すれば、専属看護師の付き添いのもと、温泉療養や旅行などを実現できるでしょう。また、容態が急変した際に、希望の医療機関へ搬送してもらえる点でも、寝たきりの方は民間救急の利用が推奨されます。
まとめ
介護タクシーと民間救急は、独力での移動に困難を抱える方の移動を支援するサービスです。ご本人やご家族のニーズに応じて適切なサービスを利用すると、快適な移動を実現できます。
快適な移動を実現するためにも、ご本人の健康状態やサービス利用の目的などを考慮したうえで、適切なサービスを選んでください。