4.福祉タクシーとユニバーサルデザインタクシーの違い

福祉系タクシーには、介護タクシーのほかに、福祉タクシーやユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)があります。

いずれも、高齢者や車椅子利用者など、移動に不自由のある人の助けになるタクシーですが、特徴や利用方法、サービス内容に違いがあります。

そこで、本記事では、UDタクシーの特徴について説明した後、UDタクシーと福祉タクシーとの違いについて説明します。UDタクシーの普及状況や抱える課題についても解説するため、ぜひ参考にしてください。

ユニバーサルデザイン(UD)タクシーとは

ユニバーサルデザイン(Universal Design、略称:UD)タクシーは、健康な方はもちろん、足腰の弱い高齢者や車椅子使用者、妊娠中の方など、誰でも利用しやすい車内設計が施されたタクシーです。一般車両タクシーに分類されることから、一般タクシー料金で利用可能です。

UDタクシーで使用される車種については、「ジャパンタクシー(トヨタ製)」を筆頭に、「シエンタ ウェルキャブ仕様タイプ1(トヨタ製)」や「NV200タクシーユニバーサルデザイン(日産製)」が挙げられます。

また、UDタクシーは一般車両タクシーに分類されるため、利用目的に制限がありません。そのため、車椅子ユーザーや妊娠中の方だけでなく、大きな荷物を運ぶ方や、ドレスを着用しており、セダンタイプの車両に乗りにくい服装の方も利用可能です。

ユニバーサルデザインタクシーの特徴

UDタクシーには、次の3つの特徴があります。

  • ゆとりのある車内空間
  • 乗り降りしやすい乗降口
  • 自転車や大きな荷物を積み込みやすいスロープ

いずれもUDタクシーを代表とする特徴であるため、ぜひ参考にしてください。

ゆとりのある車内空間

室内空間

出典:UDタクシー研究会「教えて!UDタクシー

UDタクシーは車内空間が縦横ともに広めに設計されているため、利用者が車内でゆっくりとくつろげます。

また、車椅子の場所は介助を担う同乗者の座席近くにあることから、何かあっても同乗者がすぐに介助に回りやすい車内設計になっています。

乗り降りしやすい乗降口

乗降口

出典:UDタクシー研究会「教えて!UDタクシー

UDタクシーは握りやすく視認性の高いオレンジ色の乗降用手すりが装備されているため、安全に乗り降りできます。

また、ドアは自動のスライド式で、大きな荷物を持っていても速やかな乗り降りが可能。さらに、スライドドアの開閉に連動するステップが装備されていることから、足腰が悪い方でも安全でスムーズな乗り降りが可能となっています。

自転車や大きな荷物を積み込みやすいスロープ

スロープ

出典:UDタクシー研究会「教えて!UDタクシー

UDタクシーは後部に2段引き出し式のスロープが付いているため、車椅子ユーザーの方が車椅子に乗ったまま安心安全に乗り降りできます。

また、UDタクシーには、車椅子ユーザーを対象にした後退防止ベルトもあります。そのため、車に乗るときにスロープの途中でユーザーの手が離れても、車椅子が後ろに下がりません。

福祉タクシーとの違い

ここからは、福祉系タクシーの1つである福祉タクシーとの違いについて、介助サービスの有無や利用方法、料金体系の観点から解説します。

介助サービスの有無

UDタクシーは一般車両タクシーの一種であることから、介助サービスがついていません。

乗降時のスロープ設置や、後退防止ベルトによる車椅子固定は、乗務員が対応します。しかし、UDタクシーの乗務員は介護に関する特別な資格を持っていないことから、病院への付き添いや、出発前の自宅でのサポートといった介助を提供しません。

ただし、UDタクシーを配備するタクシー会社のなかには、有償オプションで、介護関連のヘルパー資格を持つ乗務員による移送介助サービスを提供する会社もあります。

一方、福祉タクシーでは、乗務員による介助が受けられます。ただし、タクシー会社によっては、乗務員が介護関連のヘルパー資格を持っていない場合があるため、注意が必要です。

利用方法

UDタクシーは街中を走行しており、一般タクシーと同じように流しや配車アプリ、電話などで手配できます。ただし、配車台数が少ない地域も多いため、予約すると安心して利用可能です。

一方、福祉タクシーは基本的に予約制となっています。タクシー会社が保有する福祉車両の台数には限りがあり、急な配車要請に対応するのは難しいためです。

料金体系

UDタクシーの料金体系は、基本的に一般タクシーと同じです。

一方、福祉タクシーは一般タクシーと同じように乗車の距離や時間に応じた料金がかかるうえに、介護器材の貸出料金や、乗務員による介助料が発生します。

ユニバーサルデザインタクシーの普及状況

国土交通省によれば、全国のタクシーに占めるUDタクシーの普及率は2022年3月時点で、16.9%(2万9,657台/17万5,425台)です。

最新の統計情報は不明ですが、国交省は2025年度までに総車両数の25%をUDタクシーとする目標を掲げています。

ユニバーサルデザインタクシーの普及に向けた政府・自治体の取り組み

国交省は、地域公共交通確保維持改善事業を通じて、タクシー事業者が、UDタクシー車両、設備のバリアフリー化を進めるため必要な費用の一部を補助しています。

UDタクシーの普及促進を目的に、補助金を設けるのは、国だけではありません。地方でも独自の補助金を設ける自治体があります。たとえば、大阪市は、UDタクシーを導入する事業者に対し、1台あたり30万円を上限として補助を実施しています。

ユニバーサルデザインタクシーが抱える課題

UDタクシーが抱える課題には、次の4つがあります。

  • 高い乗車拒否率
  • 予約しにくい
  • 対応乗り場が少ない
  • 乗降効率が悪い

上記課題の解消は、UDタクシーの普及推進を図るうえで重要です。ぜひ参考にしてください。

高い乗車拒否率

UDタクシーの利用をめぐっては、車椅子利用者に対応できない乗務員が多いことから、高い乗車拒否率が課題になっています。

実際、障害者団体「DPI日本会議」が2023年10月に実施した調査によれば、調査に応じた車椅子利用者109人のうち、34.9%にあたる38人が乗車拒否を経験しました。同調査では、東京での乗車拒否が17.2%なのに対し、他の地域では41.3%に上ったことから、特に地方で車椅子利用者への配慮が行き届いていない現状も明らかになっています。

予約しにくい

UDタクシーは一般タクシーと同じように流しや配車アプリを通じて利用できるはずなのにもかかわらず、予約を取りにくいのが実情です。

予約を断られる際は、利用当日以外が「直前の予約を受け付けていない」、利用当日が「今日は稼働していない」などと理不尽な理由を告げられるケースも少なくありません。

対応乗り場が少ない

車椅子利用者が乗降できるスペースがあるUDタクシーの対応乗り場が少ないことも課題として挙げられます。

UDタクシーの対応乗り場の整備推進に向けては、乗降地のバリアフリーを念頭に置いた交通事業者や自治体の意識改革が必要です。交通事業者や自治体の意識が変われば、自ずとUDタクシーの対応乗り場が増えていくでしょう。

乗降効率が悪い

UDタクシーの車両設備自体は年々進化しているものの、乗降を補助する乗務員の乗降技術は全般的に高いとはいえません。

乗務員は「タクシー乗務員バリアフリー研修(通称:ユニバーサルドライバー研修)」といった外部研修への参加を通じて、スロープ乗降アシストやステップ使用時の乗降アシストといった乗降技術の向上を図る必要があります。

まとめ

UDタクシーは誰でも利用できる便利なサービスですが、乗務員による介助を受けられません。

そのため、乗降時に介助が必要な方や、病院への付き添いといった専門的なサポートが必要な方は、福祉タクシーを利用するとよいでしょう。

本記事を参考に、利用目的や状況に合わせてUDタクシーと福祉タクシーを使い分け、快適な移動を実現させてください。